一日をダイジェスト版にして、そっと脳内で思い返す。

無性にイライラしたこともあったが、日暮れと一緒にそれも消え去った。きっと太陽が持ち去ってくれたのだ。少しばかりロマンチックなことを考えて、満員電車のストレスを誤摩化した。

何も知らない他人と密着する電車が嫌いだ。

彼らがどんな人間なのかも分からない。

良い人なのか、悪い奴なのか、人でなしか、ろくでなしか。

そんな正体不明の人間と、友人知人以上の距離でただただ無言で過ごす通勤時間が一番嫌いだ。

それでも、我慢するのだ。

一番嫌いなこの時間の後に待っているものを考えれば、ちっとも辛くないから。

電車を降り、他人どもから解放される。

駅の売店はシャッターが降ろされ、いつも雑談に花を咲かせているおばちゃん達もいない。髪を染めた軽薄そうな若者が数人。わたしたちのような背広の人間を嘲笑するようなラフな格好と笑い声。

自宅そばのコンビニでチューハイを一本だけ買う。コンビニ店員には顔を覚えられてしまっているだろうが、構わない。どうせ何も知らない他人だ、互いに。白いビニル袋の中で揺れるチューハイの重さが心地良かった。一本だけ、というのがポイントだ。

真っ暗なワンルームに帰る。箱みたいな部屋だ。ハムスターにでもなったような気分に浸る。悪い気はしない。ハムスターは可愛いから。

電気を付ける、ジャケットは馬鹿丁寧にハンガーにかけた、だって明日も使うから。

「ただいま」

という声はない、当然おかえりもない、残念ながら、8ヶ月前に円満離婚だ、円満かどうか分からないが、まぁ円満だ。

円満だ。全てが順風満帆だ。仕事もそこそこ順調だ。借金もない、ここにあるのはチューハイ一つだ。

冷蔵庫から絹ごし豆腐を取り出す。食べかけで、ちょっとだけ固くなってしまった気がする。ごま油をかけ、天かすをばらまく。刻んでおいたキムチを乗せてテーブルに置く。物足りなければつまみも開けてしまおう。

チューハイをあける。一本しかないチューハイだ。馬鹿丁寧にちびちびやる。アルコールは多くても少なくても気にしない。酩酊気分になるのが楽しいからだ。

ああ、楽しい。幸せだ。それだけの為に生きている。ああ、明日も生きていける。






130602 スパークリング由来のハピネス [藤見:home]
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